午前0時、夜空の下で
琅の外交官であるクウェンは、感情の読めない瞳で心に説明した。

彼は以前国事館で働いていたらしく、選ばれし姫の輿入れの責任者として心とともに黎に行くことが決まっている。

心がヴェルディ本人ではないと知る、数少ないうちの一人だ。

そして心とヴェルディの入れ代わりに真っ向から異を唱えた反対派でもある。

先日行われた議会で、彼は朗々と主張した。

「レイン皇子は腹違いのご弟妹方を気にかけていらっしゃいますが、だからと言ってそれとこれとは話が違います。意に沿わぬ婚姻は皇族の定めでございます。黎はともかく、万が一他国にどこの馬の骨とも知れぬ者を送り込んだと知れれば、付け入る隙を与えましょう」

琅国随一の君臣の言葉はさすがに無視できるものではなく、レインたちの頭を悩ませた。

それでも心を送り込もうと決意したのは、黎王直属の軍に籍を置くジェイの言葉があったからである。

ジェイは心が黎王の傍近くにいたことや、心に万が一のことがあれば陛下の御心次第で自国にいらぬ火が及ぶ可能性を示唆した。

クウェンもジェイの言葉に、ジェイ皇子がそうおっしゃるならと口を閉ざしたのである。
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