午前0時、夜空の下で
第17話
――黎国――
静かに雨が降り注ぐ。
闇に包まれた部屋の中で、妃月は外を眺めていた。
扉が叩かれ、入室の許可を求める声がかすかに届く。
完璧なる所作で妃月の前に現れたのは、副官のクロスリードだ。
「陛下、選ばれし姫君の件で琅から報せが入りました。本日黎に入国するとのことです。他国の姫君はすでに揃っているため、琅が最後の入城となります。琅の姫君は明日にでも謁見をと申しておりますが、いかがなさいますか」
妃月は外を見つめたまま動かない。
漆黒の瞳は月明かりさえもない暗闇へと向けられており、表情からは何も窺えない。
やがて一言、許可の言葉が滑り落ちる。
「それでは早速後宮の手配を行います」
きっちりと頭を下げてクロスリードは退出し、部屋には妃月だけが残った。
しばし窓の外を眺めた後、彼はふと窓際に飾られた薔薇に目を向ける。
何にも染まらぬ純白の薔薇。
ついと手を伸ばして一輪を手にすると、真っ白な薔薇は魔王の手によって見る見るうちに枯れ始めた。
枯れ果て無残な姿になった薔薇は、床に捨てられ踏みにじられる。
原形すらもなくなった薔薇に彼はもう何の興味も見せず、漆黒の瞳はただただ冷めていた。
そして今宵も、雨は止むことなく黎の大地に降り注ぐ。
王の心情を、世界中に伝えるかのように。