午前0時、夜空の下で
移動時間はほんの一瞬。
転移装置の上に立って目を閉じた瞬間、心たちは黎にある琅国国事館に降り立っていた。
クウェンは到着後ただちに城へと使者を出すと、心を宿泊施設へと促した。
「こちらの外套をお持ちください。黎はここしばらく雨が降り続き、霧が頻繁に発生しています。視界が悪く気温が下がっておりますので、どうぞお気をつけて」
国事館の職員が厚意で外套を差し出してくれたため、心もありがたく受け取った。
国事館に隣接された宿泊施設の一室に入り、心はようやく緊張を解いた。
部屋に辿り着くとクウェンは静かな瞳で心を見据える。
「使者には明日にでも謁見を希望する旨を持たせています。今日はよく休んで明日に備えてください」
心は無言で頷いた。
それでは、と退室するクウェンの背を見送って外套を脱ぎ、じわじわと現実を実感し始める。
戻ってきたのだと、狂おしいほどの切なさに襲われる。
あれほど待ち望んだ再開が、明日に迫っているのだ。