午前0時、夜空の下で
夕闇が迫り来る、魔の時間。
心は濃藍色のドレスを身に纏う。
漆黒ではないにしても、限りなく黒に近い色。
いつか選ばれし姫が黎に行く日に備え、レインが琅で一番の仕立て屋に依頼していたものだ。
本来ならヴェルディのものであったそれは、身代わりを立てると決まった日から早急に心に合わせて調整された。
「支度はよろしいでしょうか。今晩中には謁見が叶うはずですが、長時間待たされる可能性がありますので、楽にしていただいて構いません。ジェイ皇子もご同席いただけるそうです」
無表情で言葉を発するのはクウェンである。
「選ばれし姫君はあくまで我々諸国の都合であり、黎にとって重要ではありません。そのため後に回される可能性があります。また謁見時ですが、姫にはヴェールを被っていただきます。身代わりであることが他の者に知られれば、琅が厳しい立場に追い込まれるのです。……よろしいですね?」
念を押すように言われてしまい、心は思わず頷いた。