午前0時、夜空の下で
ふと、ミスティアの言葉を思い出す。

久遠の森の中心部は、天界の直轄区だ。

天族であった祖母の故郷である、天界につながる場所。

どんな場所なのだろうか。

どんな人たちに囲まれて、美しい祖母は育ったのだろうか。

……十六夜姫は、故郷である天界を離れて幸せになれたのだろうか。

「そなたは……久しいな、人間の娘よ」

物思いに耽っていた心の背に、心地よい声が届く。

振り返れば、懐かしい灰狼が佇んでいた。

秀逸な輝きを放つ青灰色の瞳は、相も変わらず美しい。

「お久しぶりです、アッシュさん」

アッシュはゆっくりと心に歩み寄り、泥や埃に塗れた姿を見て目を細めた。

「そなたはよく逃げる。耐え難いことにぶつかると、全力で目を逸らそうとする」
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