午前0時、夜空の下で
何もかも知っているかのような口ぶりで、狼は静かに諭す。

泣き果て、走り疲れた心の耳に、それらの言葉は素直に流れ込んできた。

「それが許される者もいるだろう。魔族だろうと天族だろうと人間だろうと、逃げる者は逃げる。
己を守るための行動だ、一体誰に責めることなどできようか」

雨が乾いた地面を濡らしてゆく。心の汚れも洗い流されていくかのようだ。

身体の痛みが柔らかくなり、心は視線を落としたまま耳を傾けた。

「それでも、いつまでも逃げているわけにはいかぬ。何かを背負う者なら、いずれ立ち向かわねばならない時も来る。
悩む時間すら許されない時も、ある」

美しい灰色の毛が、雨に濡れてゆく。

日の光に照らされた灰色の毛は、さらに輝きを増すだろう。
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