午前0時、夜空の下で
「陛下に残された時間は僅かだ。記憶が消え、理性が無くなれば、多くの魔族が嬲り殺されるだろう。
魔王とはそういう存在だ。黎稀王より受け継がれた記憶が、彼らの理性となり、彼らの残虐性を抑えている。
……私はあの方のために、そなたを魔王にしなければならぬ。あの方が、賢君としてその生涯を終えられるように」

小雨だった雨の勢いが増した。

狼は気づかぬ振りをして、言葉を紡いでくれている。

心の顔は濡れていた。

それは雨の所為でもあったし、耐え難い辛さの所為でもあった。

「人間と、天族の血をひく稀有な娘よ。天王がそなたとの対話を望んでいる」

赤く染まった目元を隠して、心は微かに頷いた。

促されて、ゆっくりと立ち上がる。

その身体からは痛みも疲れも感じられない。

直轄地に降る雨が治癒の力を持っている為だろう。
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