午前0時、夜空の下で
「この神水の中に、飛び込んでくれ」

アッシュが示したのは、以前妃月と言葉を交わした湧水であった。

水面を覗きこんでも、泣き腫らした心の顔しか見えない。

心はしばし逡巡したが、大きく息を吸い込むと一思いに飛び込んだ。





「よう参られた」

声をかけられ我に返ると、そこはもう水中ではなく、視界の先には久遠の森とはまったく異なる光景が広がっていた。

板張りの簀子、畳敷きの床、風に靡く几帳――どこか懐かしい、古き良き日本を思わせるかのような雰囲気がある。

水の気はどこにもなく、心自身も濡れてはいなかった。

静かに目を瞠る心に、笑みを含んだ声がかけられる。

「落ち着いたかえ」
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