午前0時、夜空の下で
そんな心を見透かしたかのように、皇極は酒瓶を心に差し出してくる。

「今だけは難しいことなど忘れておしまい。……妾はそちに十六夜姫のことを話したかったのじゃ。
覚悟するのは、それを聞いてからでも遅くなかろう」

その言葉を耳にした途端、心は凍りついた。

皇極は知っているのだ――妃月を殺し、女王になる決断を迫られていることを。

否を許さぬ声音に、きつく唇を噛みしめる。

俯いてしまった心に皇極も小さな溜息を零し、そっと語り始めた。

「そちには世界のことなどわからぬであろう。そちだけではない。世界の均衡なんぞを気にかけるのは、魔王と天王と人間界におわす八百万の神と……その傍近くにおる者たちだけじゃ。
十六夜姫の時もそうであった。彼女もまた、世界の現状など何ら知らぬまま……贄として魔界に堕とされてしまったのじゃ」

「……贄?」
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