午前0時、夜空の下で
「そうじゃ、贄であった。魔界が天族を歓迎せぬのと同じように、天界でも魔族に嫁ぐなど忌むべきことであったのじゃ。
そこで当時の天王は、最も身分の低い側妾に産ませた姫を魔界へ嫁がせることに決めた。
それが十六夜姫じゃ。母君の身分が低いゆえ、父である天王からはほぼ忘れ去られておったにもかかわらず、都合の良い時に利用されてしまった、不憫な姫よ」

天界における十六夜姫の立場など、魔界では決して知ることができなかっただろう。

魔界で耳にした彼女は、初代魔王陛下の寵愛を一身に受け、すべての権力を手にした幸せの象徴のような存在であった。

「それはひどい仕打ちだったと聞く。白を至上とする天族でありながら、褐色の肌を生まれ持ってしまったことも、身分の低い母君のもとに生まれてしまったことも、天王の娘として育ったことも……すべてが十六夜姫を苦しめた。
十六夜姫は魔界に嫁ぐよう命じられた時、ようやく死ねると安堵したそうじゃ。
魔界でなら、遅かれ早かれ殺されるであろうと。
そこまで追い詰められていらっしゃった……」
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