午前0時、夜空の下で
天界では生きることができなかった十六夜姫。

だが心が知る限り、彼女は魔界に嫁いでも死ぬことは許されなかった。

魔王に愛されたという彼女は、果たして幸せだったのだろうか。

「魔界に嫁ぐことは、天界から堕ちるようなもの。十六夜姫は罪人と同じように、背中に生えた翼をもがれたそうじゃ。
二度と天界に戻って……いや、逃げてはこれぬように、か。想像を絶する痛みなのであろうな。
当時の天王によって天力を封印され、気を失ったまま魔界へと突き落とされた」

十六夜姫のあまりの境遇に、心は震え上がった。

今にも十六夜姫の悲鳴が聞こえてきそうで、震える身体を己の手で抱きしめる。

「……本来なら、天族からもがれた翼は、そのまま霞のように消えてしまう。
だが十六夜姫の翼は、独りでに動き、その形を変え――鳥の姿になったのじゃ。
そちも知っておろう、霊鳥のリーヴルじゃ。もいだ天族の翼が霊鳥として息を吹き返したのは、後にも先にも一度きり……。
リーヴルの存在は、まるで罪なき天族を貶めたという過ちを、我らに忘れさせまいとしているようじゃ」
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