午前0時、夜空の下で
「卑怯です」

うっそりと目を細める皇極に、心は苦々しい表情で言い返した。

今の心に妃月が覚醒した時の記憶はないが、魔界でさまざまな魔族を目にしたのだ。

あれらが人間界に流れ込めばどうなるか、容易に想像がついた。

祖父の宗一郎、父の昴、母の奈美、姉の雫、弟の翔太、そして祖父母の友人である佐伯。

喧嘩して家を飛び出したこともある。

馬鹿なことをしてひどく叱られたこともあった。

それでも愛されていると実感できる、温かな家族。

彼らのことを口に出されて、心が動揺しないはずがなかった。

「私、は……」

世界の均衡なんて難しい話は分からないし、自分が妃月を殺すなんて想像すらできない。

それでも、もう逃げ道が残されていないことだけはわかる。

「妃月さまを……殺します」
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