午前0時、夜空の下で
深く礼をして頭を上げたアルジェンは、出会った頃と何も変わりはしなかった。

深い青の瞳は静かに凪いでいて、何の感情も窺えない。

「アルジェンさん」

呼びかければ、アルジェンは苦しげに目を細める。

たった一瞬の表情に、黎にいた頃、常に傍で心を見守っていたアルジェンが垣間見えた。

助けて、と口をついて出そうになるのを耐える。

「これからあなたの臣下となる私に、敬称は必要ありません。どうぞアルジェンとお呼びください。城へご案内いたします」

生真面目に告げるアルジェンの表情はすでに感情を消していたが、その拳は震えるほど強く握られていた。

彼にとって妃月は、よい王であったのだろう。

固く握りしめた拳に心は言葉を失い、黙ってアルジェンの差し出す手をとった。
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