午前0時、夜空の下で
鮮烈な紅の血が心の視界を染めてゆく。

心の背を恐怖が這い上がってきた。

「キシナ! 治療を……クロスリードさんを助けて!!」

振り返り心は叫ぶが、キシナは深く頭を下げて心の訴えを拒絶した。

「次期魔王候補であるココロ様のご命令は絶対ですが、その者は御身を傷つけようとした賊でございます。
再びお命を狙う危険もある故、従うことはできません」

キシナの冷静な声に、心は剣を抱いたまま崩れ落ちた。

もしここにいたのが妃月であれば、彼女は命令に従ったのだろうか。

妃月なら例え己の身を狙われたとしても、自身で防ぐことができたであろう。

キシナの言葉は心の安全を考慮したものであると同時に、その無力さを指摘したものでもあった。

罪を犯した者がいたならば、その場で悪戯に命を奪うのではなく、定めに従って裁くのが正しい判断のはずだ。

琅で反乱が起きたときのように。

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