午前0時、夜空の下で
ガラス張りの天井から差し込む月明かり。

波紋が広がる一面に張られた水の床。

四方の壁を覆い尽くさんとする緑。

そして中央に、心に背を向けて月を見上げる存在があった。

誘われるように足を進め、水張りの床を歩いてゆく。

水音に気づいた彼が、ゆっくりと振り返った。

「……妃月さま」

能面のように色のない表情は、心の呟きを耳にして微かに歪められる。

それでも心は妃月の姿を目にして、鼓動が高鳴った。

――殺さなければ、ならないのに。

迷いを捨てきれない心とは対照的に、妃月は腰に佩いた剣を抜く。

冷徹な視線を向けられて、心は冷水を浴びせられたかのように立ち尽くした。


「――剣を抜け」


月の光に照らされた男は、月神のように美しい。

言われるがままに鞘から魔剣を抜き、漆黒の刀身に心は目を瞠った。
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