午前0時、夜空の下で
すとんと落ちてきた直感は、心に言い知れぬ安堵をもたらした。

それだけで、自分がどれほど妃月を殺したくないと思っていたのかということに気づかされる。

無様に倒れようと、呆気なく殺されてしまおうと、心の妃月への想いは変わらない。

世界なんてどうでもいいと、すべてを捨てようとした。



しかし、妃月の手に握られていた剣は、水張りの床に落とされた。

水音とともに、膝をついた妃月がゆっくりと心に手を伸ばす。

「――心」

響いた声音が、優しく心の耳朶を打つ。

ひんやりとした指先でそっと心の頬を撫で、妃月は整った顔を苦しげに歪めた。

妃月には似合わない優しすぎるほどの丁寧さに、胸がきゅうと締めつけられた。

「妃月さま?」

水張りの床に座り込んだ状態の心の腰に腕を回し、妃月はその首筋に顔を埋めた。
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