午前0時、夜空の下で
吐息が肌に触れて緊張に固まる身体を、妃月が口唇で辿ってゆく。

まるで心の存在を確かめるようにじっくりと、項を辿り浮き出た鎖骨を食んだ。

――まさか……記憶が戻ったの?

鼓動が早鐘を打ち、今にも気を失いそうな心を嘲笑うかのように、妃月は口唇を滑らせてゆく。

血に塗れた肩は妃月の舌によって執拗に舐められ、痛みと羞恥で心の肌は仄かに赤く染まった。

溢れた血を散々舐めとってようやく満足したのか、小さな小さな囁きが、切ないほどに静かな空気を震わせた。


――逢いたかった。


今にも消え入りそうな囁きに、すべての痛みを忘れた。

大きな背に動かせる腕を回して縋りつく。

水を含んで重くなった衣服の所為で、思うように動けないのがもどかしい。
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