午前0時、夜空の下で
私も逢いたかったのだと涙声で訴えれば、妃月は静かに心の髪を撫でた。

落ち着かせるように、何度も、何度も。

頭から足先まで、すっぽりと包まれているような感覚に陥り、身体から力が抜けてゆく。

もう離れたくないと、心は縋った腕に力を込めた。

しかし妃月は心の耳朶に口唇を寄せると、抱き寄せていた腕から力を抜き、嫌がる心を宥めつつも引き剥がした。

「離さないで……。妃月さま、みんな怖いことばかり言うんです。魔王さまは妃月さまだけなのに……」

駄々をこねるように首を振ると、妃月は両手で心の顔を包み込んだ。

しっかりと互いの瞳を合わせて、妃月は穏やかに微笑む。

初めて見る優しい表情に、心は目を奪われた。
< 515 / 547 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop