午前0時、夜空の下で
「もう一度、こうして逢えてよかった。お前の血の香りに引き摺られて、微かに理性を取り戻すことができたようだ。
話すこともできないまま、終の継承を成すところだった」

「妃月さま?」

胸がざわめき、心は目を逸らそうとした。

今は何も聞かずただ抱き合っていたいのに、妃月の手はそれを良しとしない。

「逢いたかったんだ、もう一度。たった一言を伝えるために、想いは生き続けた」

「たった、一言……?」

「そうだ。十六夜に伝えられなかったことが、心残りだったんだ。
――今度こそ、自由に生きろ」

凛と響いた言葉に、心は呼吸を忘れた。

時が止まったかのように、瞬くことすら忘れて妃月を見つめる。
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