午前0時、夜空の下で
「違う!! 私はあなたに惹かれていた! 魔王であるあなたのことが――ああ、もう。
信じて、黎稀……愛しているの」

切々と訴えかけた心に、妃月の瞳が戸惑ったように揺らいだ。

何かを躊躇うように、心の頬を包んだ手がそっと唇を撫ぜようとした――次の瞬間。

水に浸かったままの傷を負った腕に、新月が絡みつく。

動かないはずの腕は新月によって操られ、気づいた時には目の前の存在を貫いていた。

肉を切り裂く感触が、脳へと伝わる。

「……え?」

何かを耐えるように顔を歪めた妃月が、ゆっくりと水張りの床に倒れ込む。

時の流れが恐ろしく怠惰に流れていくかのように、心の目には一つ一つの動作がひどく遅く感じられた。

妃月が倒れた瞬間の水飛沫の音で、急速に現実が戻ってくる。
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