午前0時、夜空の下で
その常軌を逸した光景に、何もできず見守っていたアルジェンは瞠目したが、心にしてみれば、かつて妃月がしてくれたように口づけただけだ。

恐る恐る唇についた血を舐めれば、甘美な風味が広がった。

すっきりとした心地よい甘さとともに、鼓動が歪な音を立てる。

ドクッ。

ドクッ。


――ドクン。


静まり返った終の間に、鼓動が響き渡るかのような錯覚に陥り顔を上げた心は、目の前に飛び込んできたそれに目を瞬かせた。

『マッテタ……。テンゾクノチノメザメ。マオウノチニヨッテ、メザメルチカラ』

黎明館に置き去りにしてきたリーヴルが、無邪気な瞳を心に向けていたのだ。

呆然とリーヴルを見上げる心に、彼女はさえずりとともに語りかける。

『テンゾクニハ、チユノチカラ、アル。アナタガノゾムナラ、オシエル』

「ちゆ……治癒? 妃月さまは助かるの!?」
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