午前0時、夜空の下で
まるで見えない何かに追い立てられているかのように大声を張り上げ、切羽詰まった様子で心は扉を叩く。

しかし、中から開かれる様子はない。

ふと思い出したように、心は後ろを振り返った。

門の向こうに人の姿は見えない。

生温かい風が、緩やかに心の頬を掠めていく。

怖がる自分を笑って扉へと向き直った心に、誰かの囁きが聞こえた気がした。

――ナニカ、イル。ダレカガ……ミテ、ル。

ごくりと喉を鳴らした、その瞬間。

微かな音を立てて、重い扉が開いた。

「佐伯さん!?」

慌てて扉を強く引いたが、そこには誰もいない。

洋館の中は恐ろしいほど暗く、静まり返っていた。

ホールの正面に飾られた貴婦人の肖像画が、美しく心に微笑みかける。

重い扉が独りでに開いたことを不審に思いながらも、もしかしたら留守なのかもしれないと扉から手を離そうとした。

だが、静かな洋館の奥からある音が耳を掠める。

――水が一滴、したたる音。
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