午前0時、夜空の下で
「鍵が開いたままなのは、不用心だよね」

誰かに言い訳するように、ぽそりと呟く。

微かに震える心を見つめるのは、肖像画の貴婦人だけだ。

心は一度、唾を飲み込んで。

ゆっくり、ゆっくり、洋館の奥へと足を進めた。

まるで、何かに突き動かされたかのように。

誰かに誘われるかのように。

軋んだ音を立てた後、独りでにバタン、と閉まった扉の向こうでは、まるで警告するかのように雷が鳴り響き、バケツを引っ繰り返したかのような激しい雨が降り始めた。



足早に歩き慣れているはずの廊下を進む。

心臓が高鐘を打っていたが、心はただただ歩き続けた。

一歩一歩進むたびに、板張りの回廊は軋んだ音を立てて心を怯えさせた。

――ピチャン

水の音を聞いて、さらに歩みを早める。心は何かに誘われるかのように、その音へと向かっていった。
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