午前0時、夜空の下で
赤く彩られた唇から、鈴を転がすかのような声が零れ落ちる。

「……え?」

戸惑う心に構わず、カザリナは悠然と微笑むと、優雅に一礼して去っていった。

嫌味のない口調。

丁寧な物腰。

『相変わらず、カザリナ様は素晴らしく洗練された方ね。陛下の寵愛を受けている女性にも、礼節を忘れないなんて。……あの方こそ陛下の愛人に相応しい方だわ』

誰かの囁きに、心の動きが止まる。

「…あ、の……ココロ様……?」

気遣うようなアルジェンの声に、心はハッと我に返った。

窺うように口を開こうとした彼を、有無を言わさず笑顔で拒絶する。

「すみません、アルジェンさん。私、もう戻ります」


< 82 / 547 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop