午前0時、夜空の下で
逃げるようにそこから出て行く心に、クスクスと笑い声が届く。

『相手があのカザリナ様じゃあ……逃げたくもなるわよね』

……血が、滲むほどに。

唇を強く噛み締めた。



足早に暗い回廊を進んでいく。

地下室を降りたあの日以来、暗い闇の中を迷わず歩けるということにも気づかずに。

妃月の部屋を目指してただ歩く。

急いで無理をした所為か、ズキンと左足が痛んだ。

ドレスをたくし上げそっと踵を見ると、靴擦れをおこしてしまっている。

心は小さく溜息を吐くと、ヒールを脱ぎ捨ててまた歩き出した。

ヒタヒタと、冷たい床の上を素足で進む。
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