君がいた夏



病院の椅子にすわって、先輩はゆっくり話し出した。

「……菜穂ちゃんと離れてから、紀衣は俺に依存するようになった。……俺も初めは守らなきゃって、あいつには俺が必要だって責任感じてた。でもある日……俺が一回だけ、一緒に帰る約束をしてた日に、他の女子とクラスのことで話してて、時間に遅れたんだ」

先輩の手が少し震える。

「そしたら、紀衣が来て、紀衣は俺らの関係を勘違いしたらしくて、話してた女子に詰め寄った……。いや
詰め寄ったなんて甘い言葉だな………紀衣の手にはハサミが握られてたんだ」

私は耳を疑った。

大好きな人をとられたとかん勘違いして、人を殺しかけた?

「俺が何度も説得したんだ。違うって、俺が話しかけたんだって……だけど紀衣は、優ちゃんは悪くない。この女がたぶらかしたのってそれしか言わなかった……」

先輩が深呼吸をひとつ入れて
手を握る。

「ずっと、紀衣は笑ってた。ハサミもちながら、笑いながら女に詰め寄ろうとしてた。……結局、女が俺が止めてる間に逃げて、紀衣は正気を取り戻した…でも」

「……怖くなった。初めて……ずっと家族として好きだった奴が怖くなった………いつか、菜穂ちゃんを殺すんじゃないかって」
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