君がいた夏
「傷、痛むか?」
先輩が弱々しく私の肩に触れる。
病院の中庭のベンチで私たちはならんで座っていた。
「少し…でも、大丈夫」
「………ごめんな……また傷つけた。守ってやれなかった……俺が守られてる」
先輩は私を見て少し笑った。
「ほんとですよ。女に守られちゃって」
私も同じように笑った。
笑ってないと泣いてしまいそうだったから。
「無理しなくていいんだ…泣いていい………」
「え……?」
先輩は私を抱き締めた。
その温もりが私の涙腺をゆるませた。
「っ………ほんとは、すごい……怖くて……でも、一番苦しんでるのは……先輩、だから……」
「うん……」
「……でも、先輩を守れて、良かった………きっと、先輩に、怪我させたら紀衣さんも傷つくから」
私はそう言って先輩の体に手をまわす。
「ありがとう………」
先輩が耳元でそう呟いた。
「でも、今度こそ俺が守る。……紀衣もたぶん、悪いと思ってるはずなんだ」
「うん……」
私と先輩はしばらく抱き合っていた。
日がくれて月明かりが綺麗に見えて、私たちは
ただお互いの温かさを感じていた。
不安だったのかもしれない。
そばにいることを、感じていたかった。
先輩の幼なじみという、大きな壁が
私たちの前に立ちはだかっていた。
でもそれは、固そうに見えて実はもろく、儚いのかもしれない。