君がいた夏
紀衣さんは離れようとする先輩の腕をつかむ。
その目には涙が浮かんでいた。
「なんで、いつもっ!私の思いは報われないのよ?!………どうして、一番近くにいてほしい人は……いなくなっちゃうの……」
「紀衣……」
「どんなに頑張っても、頑張っても頑張っても!!……いつも菜穂ちゃんには………敵わないの……」
紀衣さんはゆっくり先輩の腕を離す。
「ずっと、そばにいてほしかった。……家族としてじゃなくて、恋愛として……私を見てほしかった」
「………ごめんな」
先輩は私の手を握る。
「俺は、菜穂ちゃんと一緒にいたい……」
「先輩………」
紀衣さんは私を見てから
また、外を見る。
「………今日は帰って………何も聞きたくない」
「紀衣……」
「帰って!」
紀衣さんは叫んだ。
私たちはゆっくり病室を後にした。