君がいた夏
「良かったのか?」
「桐さん……」
入れ違うように、桐さんが病院から出てきた。
先輩から事情を聴いたらしい。
「大丈夫……先輩は、帰ってくるよ」
私は自分に言い聞かせるように強く手を握る。
「………菜穂、強くなったなぁ」
「え?」
桐さんは私を見つめると
優しく柔らかく笑った。
「……優陽を、支えてくれて、暗闇から救いだしてくれてありがとう……ほんとは紀衣がこうなる前に、俺が二人を引き離すべきだったんだ……」
桐さんは少し後悔のある瞳を私に向けた。
「ごめん、結局、一番悪いのは俺だな………逃げてんだ、紀衣が苦しいときも、優陽が苦しいときも……」
「桐さん……そんな事、ないですよ………だって、桐さんは私に勇気をくれました。辛いとき話を聞いてくれました。それだけで、桐さんは逃げてなんてない。ちゃんと向き合ってくれています」
私も桐さんの瞳を見つめる。
桐さんは少し驚いた顔をして
そして、笑った。
「…………ありがとう、菜穂……」