君がいた夏


「良かったのか?」
「桐さん……」

入れ違うように、桐さんが病院から出てきた。
先輩から事情を聴いたらしい。

「大丈夫……先輩は、帰ってくるよ」

私は自分に言い聞かせるように強く手を握る。

「………菜穂、強くなったなぁ」
「え?」

桐さんは私を見つめると
優しく柔らかく笑った。

「……優陽を、支えてくれて、暗闇から救いだしてくれてありがとう……ほんとは紀衣がこうなる前に、俺が二人を引き離すべきだったんだ……」

桐さんは少し後悔のある瞳を私に向けた。

「ごめん、結局、一番悪いのは俺だな………逃げてんだ、紀衣が苦しいときも、優陽が苦しいときも……」
「桐さん……そんな事、ないですよ………だって、桐さんは私に勇気をくれました。辛いとき話を聞いてくれました。それだけで、桐さんは逃げてなんてない。ちゃんと向き合ってくれています」

私も桐さんの瞳を見つめる。

桐さんは少し驚いた顔をして
そして、笑った。

「…………ありがとう、菜穂……」

< 117 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop