君がいた夏


「おはよう菜穂」
「・・・おはよう」

私は明美に笑いかけ
歩き出そうとする

その足はすぐに止まることになる

明美がしっかり私の手をつかんでいたからだ。

「あけ・・・」
「泣いたの?」

私が口を開こうとするのを
遮って明美が尋ねる。

明美はまっすぐ私を見てる

「え?」
「・・・目、腫れてるけど」

私は
明美の言葉に開いた口を閉じる。

「・・・やっぱり、昨日、放課後話せば良かった」

そう呟いた明美

「今日の放課後、いつもの喫茶店ね」
「え、あ・・・はい」
「よし。じゃあ学校行くよ」

明美は一方的にそう言い放つと
早足で歩き出す

学校まではずっと2人とも無言だった。

学校の靴箱で私は
おそるおそる明美に尋ねる

「明美・・怒ってる?」

靴をはきかえた明美は進めていた足を止め
下を向いた。

「悔しいの」
「え?」

悔しい?

「菜穂が苦しんでたのに力になれなかった私に、腹が立つ」
「明美・・・」
「心のどっかで先輩に会えば菜穂は前に進めるって確信してた、だけど・・・菜穂がこんなに先輩のこと好きだったなんて・・・」

明美は切ない表情で私を見る

「ごめんね、菜穂」

< 12 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop