君がいた夏


「……もう、私に、縛られなくて……いいよ」

そう紀衣はたしかな声で言った。

「……菜穂ちゃんと幸せになって……私も、ちょっとずつ、強くなるから……」

布団に涙が染みていく。
紀衣と…

俺の涙が。


「……紀衣……」
「…それと、私ね、優ちゃんのことが好きだったよ、大好きだった」
「……ありがとう…でも、ごめんな。俺は菜穂ちゃんが好きだ」
「うん、ちゃんと、ふってくれてありがとう…」

紀衣は悲しげにでも優しく笑ってくれた。

「今度、私にいい男ができたら、菜穂ちゃんとダブルデートしようね」
「あぁ、約束だ」

俺たちは笑いあって
そして、同時に俺の中の何かが解き放たれた気がした

「それじゃ、俺はいくよ。また、来るから」
「…うん。あと、菜穂ちゃんに今度一人で訪ねてもらえるか聞いてくれる?」
「別にいいけど……一人でか?」
「そうよ」

< 122 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop