君がいた夏



次の日

私は少し緊張をしながら病室の前に立つ。
先輩から紀衣さんが一人で来るようにという伝言を今朝聞いて
いまここにいる。

「失礼します」

そう声をかけてドアを開ける。
そこにはこないだより、清々しく見える紀衣さんが
穏やかに笑って座っていた。

「ごめんね、急に呼んで
「いえ…あの、今日はどうして?」
「まぁ、座って?」

そう言って紀衣さんはイスを差し出す。

「ありがとうございます」

私が座ったのを確認すると
紀衣さんは私の方に体ごと向ける。

「……こないだは、本当に……ごめんなさい…」
「え?」

紀衣さんは頭を下げる
そして下げたまま続けた。

「あなたに、怪我をさせてしまった………ほんとに、ごめんなさい……謝ってすむ話じゃないけど…」
「そんな…たいした怪我じゃないので」
「でも、傷つけたのは事実よ……何て言ったらいいか」

紀衣さんの頭は下がったままだった。
私は紀衣さんの肩を持ち顔をあげさせる。

「そんな、顔をしないでください……」
「……あなたは、あの頃と変わらず真っ直ぐね」

< 127 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop