君がいた夏
「で。何の用?」
先輩は私を見つめ尋ねる。
「用は・・・ありません・・」
馬鹿。
これじゃ、会いに来たみたいじゃんか。
いや実際会いに来たけど・・・
私が小さく呟くと
先輩はまたもや吹き出した。
「ぶはっ。素直すぎ、ほんと真っ直ぐなとこ変わんないなぁ」
“変わんない”
こないだとは少し違う優しさのこもったものだった。
私は先輩を見つめる。
笑いながら、遠くを見る横顔は中学の時と変わらない優しい顔をしてた。
「先輩・・・・私がもっと成長してたら、変わっていたら、先輩の苦しみを分かってあげられたのかなぁ・・・」
「菜穂ちゃん・・・?」
体操座りで
膝を抱えた腕に力を込める。
「もっと大人だったら、良かったのかな・・・」
独り言のように呟いた。
先輩はしばらく私を見てから空を見上げ
微笑んだ。
「菜穂ちゃんは、変わらなくていい。そのまま笑っててくれればいい・・・」
確信はなかったけど。
それは先輩の偽りの言葉じゃないと思った。
だって
先輩の空を見上げる横顔がすごく悲しそうだったから。
「変わってない菜穂ちゃんは、正しいよ。・・・でも俺が、変わったんだよ」