君がいた夏

生きること





「………お母さん、お父さん、行ってきます」

いつものように、仏壇で手を合わせる。
返ってこない返事を
何度、待っていただろう。

わたし、松原紀衣は中学の頃車の事故で親を二人同時に亡くした。

「……よし」

それでも、私は寂しくなかった。
辛かったけど、幼馴染みがいたから。

ずっと、幼馴染みの優陽が好きだった
でも、優ちゃんは後輩を好きになった

依存していたのはわかっていたけど
どうしても優ちゃんをとられると思うと自分に制限がかけられなかった。

たくさん、人を傷つけて
たくさん、傷ついて

そんな私を見捨てなかったのが
大事な人を傷つけられたのに微笑んでくれる優ちゃん
私が傷つけた優ちゃんの大事な人、菜穂ちゃん

そして

「お、紀衣おはよう」
「……桐」

どんなに私がおかしくなっても
いつもそばにいて止めてくれた桐。

「また、来てたの?大丈夫だっていったのに」
「いいだろ?おいてくぞ」
「あー、まってまって」

桐は私が退院してから毎日、朝、迎えに来る
彼は心配してるのだろうけど…

「……学校、行きたくなーい」
「はぁ?…………なんで?」
「…なんとなく。海みたい」

私は何気なく呟いた。
ほんとに、ただの気まぐれだった。

「よし」

ふいに桐がそう呟いた。

私は桐の自転車の後ろでただぼーっと過ぎてく景色を
見つめていた。
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