君がいた夏
「……だけど、もう逃げない。紀衣も優陽も菜穂も、支えてく……」
桐は私の手をとって両手で包んだ。
「もう……紀衣が苦しまないように俺が支える」
「っ……」
「お前は、自分自身を責めなくていい。お前の優陽への気持ちは本物だ……だから、それを受け止めて前に進んでいこう」
ストンと、なにかが私の胸に落ちた。
その時、昔の思い出がよみがえってきた。
こんなこと、昔もあったな…
『紀衣!なんで、泣いてるの?』
『うっ……桐……うう』
『大丈夫?』
『……失くしたの』
『何を?』
『……お母さんからもらった、おもちゃの指輪』
あのときも、桐は私の手を包んで笑ってくれた。
大丈夫だって、僕がいるよって言ってくれたんだ。
「……桐、そんな顔しないでよ」
「……」
「いつも私が誰かにそばにいてほしいとき、いつも隣にいたのは、支えてくれたのは桐だよ」
「っ!」
桐が顔をあげる。
私より、傷ついた顔してる。
私は包まれていた手を、外し、逆に桐の大きな手を包んだ。