君がいた夏
「私がいるよ」
あの時とは逆だけど、あなたの支えになれるなら
私は何度も言おう。
私のためにこんなに傷ついてくれる。
私のそばにいてくれる。
どうして、気づかなかったんだろう。
決して手の届かない人を見続けて
依存して
たくさんの人を傷つけて
そんな最低な私のそばにいつもいてくれた人が
ここにいたのに。
「……っ……ごめん、桐」
「泣き虫だな。そんな泣き虫だったか?」
桐は私の好きな柔らかい笑顔で私を見た。
「………紀衣?………俺がいるよ」
桐はそう呟いて私の頭を撫でた。
「昔、そうお前に言ったのにな」
「覚えてたの?」
「あぁ。当たり前だろ?」
私はまた溢れそうになる涙をこらえて
立ち上がる。
「……桐、すぐには無理かもしれないけど……私、前に進むから。桐がいてくれるなら、進める気がする」
「……そっか」
背中から安心したような嬉しそうな声が響く。
「桐、ありがとう」
「うん」
私たちはしばらく海を黙って見つめてた。
大切なものほど
近すぎて見えなくなる。
私は遠くを見すぎて
自分さえも見失ってしまったのかもしれない。
そんな暗闇に一緒にいて、私の手を握ってくれてたのは
桐だったんだね。
ようやく、気づけた。
自分の気持ちにも
大切な人も
「よし、冷えるしそろそろ帰るか!」
「うん」
私は歩き出す桐の後ろ姿を見つめる。
「………もう少し黙っておこうかな」
私はいま、気づいた気持ちを、いつか私が一人で歩けるように強くなったら伝えようと思う。
「おーい?紀衣、おいてくぞ」
「はーい」
だけど
桐のとなりを誰かにとられるなんて
それはそれですごい、嫌だから
私のこの決心なんて
すぐに、壊れるかもしれない。
「わたし、決心とかすぐ壊れるタイプだからな」
「いきなりどーしたの?」
「ん?昔から、何事も続かないなーって」
「知ってるよ。決心とかしといて、結局すぐ変わってるのがお前だよ」