君がいた夏
「………桐?」
「ん?」
俺は隣で座ってる紀衣に視線を写す
俺らは今日、海にいってきた
春だから寒かったけど
紀衣と話がしたかった。
「また寝ないでよ?起こすの大変なんだから」
「わかってるよ」
俺はそういって愛しい人を見る
綺麗な黒髪が目にはいる。
あいかわらず、美人だな…
「……もー」
唇を軽く尖らす彼女の手は
何故だかまだ俺の手を握ってる。
海を見たあと紀衣は俺の手を握ってきた。
期待しちゃうからやめてほしいんだけどな
まぁ、まんざらでもない自分がいることに少し嫌気がさす
「なぁ、紀衣」
「んー?」
「お前さ、まだ……優陽のこと好きか?」
恐る恐る聞いてみる。
すると彼女の瞳は大きく見開かれる。
「……まさか。もう、大分前にふっきれてるよ。好きだったけど、半分意地になってたの」
紀衣は軽く笑った
すきじゃないのか?
て、喜ぶな。
「………いいのか?」
「うん。菜穂ちゃんがいるし、それに…」
「それに?」
俺が紀衣の顔をのぞくと
紀衣は俺を見つめる。
少し熱を帯びた瞳が俺をとらえる
「っ」
「…………私……」
紀衣が口を開いたとき
俺たちが降りる駅についた。
「…あ、降りなきゃ」
「あ、あぁ」
紀衣が俺の手を引っ張る。
このままじゃダメだな。
俺も、そろそろこの気持ちを抱えるのも辛くなってきた
伝えなきゃいけないかもな。
俺も、前に進む必要がある。
ふられないと、前に向けないか……