君がいた夏
「…他の男にとられてもいいのかよ……俺は菜穂を、はじめは…あの歩にやってもいいと考えたけどな」
「………」
「でも、今は誰にも渡したくない………お前の紀衣への気持ちはそんな軽いものなんだな…」
「違う!」
反射的に叫ぶ。
そんなこと、思ったことはない。
優陽にさえ嫉妬してる。
もっと知らない男になんてやれるか。
「だったら……追いかけて、気持ち伝えろよ」
「……」
「……紀衣なら、まだ遠くまでは行ってない」
「あぁ」
優陽は俺の胸ぐらから手を離すと
背中を叩いた。
「……行ってこい」
「優陽、ありがとうな」
俺はそういって走り出す
桐の背中を見つめて優陽は微笑む
「つくづく不器用なやつ」
そう呟いて改札に足を向けた。