君がいた夏
「先輩っ、こんなとこにいた。バイト交代の時間っすよ」
川上くんが喫茶店に入ってきた
バイトの格好のままだ
「歩、悪い。今いく」
「あ、じゃあ私はこれで。もう遅いですし」
「高嶋、待って。送るよ」
川上くんは笑う
この人は女子を送るのが当たり前なのかな
「いや、でも」
「待ってて、着替えてくる」
「あ・・・・」
川上くんは桐さんも置いて走り去ってく
「全く」
桐さんは苦笑いして荷物をまとめる
「ねぇ、菜穂」
そして川上くんの後ろ姿を見つめて私に話しかけた
「はい?」
「もし、菜穂に他に特別な人ができたら、その人は多分菜穂を大事にしてくれると思う」
「え?」
「・・・・もしも、だけど」
にやりと笑って
桐さんは歩き出す
この桐さんの言葉の意味を知るのは
少しあと。
このときの私は
桐さんの言った言葉の意味が
理解できなかった
そして
この言葉が
私を乱すものだということも
知らなかったんだ・・・