君がいた夏

「・・・桐さん」
「え?」
「だから、桐さん」

私は固まる

桐さんってあの桐さんだよね?
でも何で?

「何でって顔してる」

明美は笑った

「好きかどうか、はっきりした訳じゃないの。ただ、彼の・・・友達でもなんでも真剣に考えてる姿にちょっと良いなって思った・・・彼の真剣な優しさが私に向けられたらって思ったの・・・」

それは
立派な恋だ

「明美・・・」
「無理だって分かってるよ。他校だし、彼女だっているかもしれないから、何度も諦めようとした」
「諦めちゃダメだよ」

自然と出たセリフ
明美は驚いたように私を見上げる

「好きだったら、彼女がいたって気にしちゃダメだよ。好きな気持ちは誰にも邪魔されないんだから。思いっきり恋しよう?・・・絶対振り向かせてやるって気持ちでいなきゃ」

私は
明美を見つめる

すると明美は笑って
髪をかきあげた

「その言葉、菜穂に向けて言いたいよ」
「え・・・?」
「諦めるの?先輩のこと」

私は言葉につまる

「もしかして、明美・・・・」
「あ、ばれた?」

桐さんが好きって、嘘だったの?

「ごめんね、騙して。だけど、こうでもしなきゃ菜穂、ずっと苦しんだままだと思ったから」

「明美・・・」
「諦めるの?」

もう一度言う明美。

諦める?
本当は諦めたくない。
まだ、大好きだって思ってしまう。

「私は・・・」

だけど、好きでいていいの?
だって、先輩は、ずっと苦しんでる。

私の気持ちは余計に先輩を苦しめるんじゃないかな。

だから、私は・・・

「もう、好きじゃないよ?何、言ってるの、明美。」

笑って立ち上がる。
本当は明美に見つめられたら、嘘がバレてしまいそうで怖かった。

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