君がいた夏
明美は何か言いたそうだったけど、結局何も言わなかった。

「帰ろうか」
「・・・・うん」

私たちは、帰り道を歩く。
しばらくして、ふいに明美が呟いた。

「・・・・・やっぱり、菜穂には諦めて欲しくなかった・・・・」


え?

今、何ていったの?

「・・・・桐さんが好きっていうのは、嘘なんだけど・・・・他校に好きな人がいたの。だけど、彼には彼女がいて、フラれちゃったんだ・・・」

嘘。
そんなこと一度も言わなかった。

「菜穂の、先輩のこと諦めない姿に励まされた。・・・・だから、菜穂と先輩には幸せになって欲しかった」
「明美・・・・」
「私が勝手に抱いてた理想だから・・・」

そう言って明美は笑った

「ゴメンね」

そう私は呟いた
明美は足を止めて私を見る

「なんで謝るの?」
「だって・・・明美の苦しさに気づいてあげられなかったから」
「私も言わなかったから」
「でも・・・明美に私は、たくさん助けてもらったのに・・・」

なのに私は
何もしてあげられなかった

「大丈夫だから。私は菜穂が幸せならいいの」

< 62 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop