君がいた夏
「歩?」
私が覗きこむと歩は私の頭をさわった
「…あった。見たら正面にいたからな」
「……やっ、ぱり?」
髪を撫でる歩の手
後夜祭の火の光で照らされる歩はすごく大人っぽくて私は目をあわせられなかった
「ね。あっち行こ」
私は気まずくてみんなの方を指差す
だけど立ち上がった私の腕は歩がひっぱり、気がついたら私の体は歩に包まれていた
「……歩?」
「なんで、気がつくんだよ…」
「え…?」
「……なんでもねぇ。……菜穂、今日なんかあったか?ずっと辛そうな顔してたけど」
「………大丈夫だよ。今は何も考えたくないだけ」
「そっか」
そう短く答えると歩は私の体を離し、立ち上がる。
「向こう行こっか」
私は歩の後ろ姿を見つめる
なんで、抱き締められたんだろう?
歩は何を考えてるの?
全てがわからないまま文化祭は静かに幕を閉じた
先輩にも歩にも
私は何も聞けないまま
ただ現実から避けていた
怖かった。
日常を変えることが
変わってくことが
だけど
ゆっくり、確かに私たちの関係は私の知らない間に形を変えていたんだ。
私は、誰に恋をしているんだろう?