君がいた夏
ほんとは、抱きしめられた理由も
全部、気づいてた。

だけど、気づきたくなかった。

歩との関係を、変えたくなかったから。

でも、もう、限界なんだね。

「うん・・・・わかってた」

私の答えを聞いて、歩は満足そうにうなずいた。
そして、ゆっくり口を開いた。

「俺は、菜穂が好きだよ」

私は涙をこらえながら、頭を下げた。

「ありがとう、でも。ごめんなさい」

歩を見つめて、自分の気持ちをくちにする。

「私は、多分・・・優陽先輩が、好きです」
「多分じゃ、ないだろ?」

私は目を閉じて頷く。

「知ってたよ。いつも、俺といても目はアイツを探してた。いつも、頭はアイツで、いっぱいだっただろ?」
「歩」
「いいんだよ。それを知ってて好きになった。・・・ふってくれてありがとう」

優しく笑う歩。

私はまた泣いてしまった。

「泣き虫だなー」
「うるさいなぁ」

私は歩の腕を叩いて笑った。

「菜穂は笑ってたほうがいい。笑顔が一番似合うよ」
「うん、ありがと」
「ほら、雨もやんだし、帰りな」
「うん。帰りは1人で大丈夫だよ。もう、平気」
「おう。また辛くなったら話は聞いてやる」

そう言って頭を撫でる歩

「無理はするなよ。じゃあな」
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