君がいた夏
泣きじゃくる私の前に先輩がかがんだ。
顔をゆっくり上げたら
先輩が私の頬に手をおいて涙をふいた。
「やっぱり、菜穂ちゃんは優しくて、真っ直ぐだ」
その微笑みは
すごく優しくて、安心させるような、そんな笑顔。
「ずっと、菜穂ちゃんをおいていったこと、すごく後悔してた。・・・離れたくなんてなかったんだ。・・・だけど、今年の夏に再会したとき・・・俺には罪悪感しかなかった」
目と目を合わせながら
空白の日々を埋めていく。
「もう、隣にいることさえ、俺にはできないと言い聞かせて、菜穂ちゃんを遠ざけた。・・・けど、遠ざけても遠ざけても、いつも笑ってくれる菜穂ちゃんを・・・」
「好きになった」
「先輩・・・」
先輩は優しく笑った。
「バカだよなぁ。自分から好きにならないように遠ざけたのに。・・・だから、川上に頼んだ。紀衣には悪いけど、紀衣を理由にして、一緒にいれないと思い込もうとした」
「・・・・」
「でも、無理だったよ」
そう言って先輩は私の頬にあてた手をゆっくり私の頭に移動させて
引き寄せた。