君がいた夏


夢のような時間だった。
しばらく、抱き合った私たちはゆっくり体を離した。

なんだか気恥ずかしくて
でも、幸せな気持ちのまま、沈黙が流れる。

「・・・帰ろっか」

さきに先輩が小さく呟いた。
私は顔をあげずに小さくうなずく。

「菜穂ちゃん?」

先輩が私の顔をのぞく。

「!」

近い!
私はさらに顔をあげられなくなる。

「照れてるの?」

少し笑った先輩。
私は、図星をつかれて、思わず顔をあげる。

「違います!」
「ふーん?ま、いいけど」

ニヤニヤする先輩を睨む。

「帰ろ。ほら、行くよ」
「え」

私は出された手を見つめる。
これって・・・

「手、つながないの?」
「っ・・・繋ぎます!」

私は先輩の少し大きい手に自分の手を重ねる。

先輩と私は、手を繋ぎながら校舎に戻る。

「じゃあ、支度したら下で待ってて」
「え?」
「え、じゃなくて。一緒に帰ろうよ」
「はい!」

私は笑って答えた。

「じゃ、あとで」

先輩も笑った。
夢みたいで、でも覚めないでほしい。

ずっとずっと
続いていてほしい現実なんだ。
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