ライオン
「健次に声もかけたんだけど、気がつかなかったみたい」

「そうか……、そうだな。
あの時は、まわりに気をかけてる余裕は無かった」

湊は口元をナプキンで拭きながら、首を縦に振り言葉を続ける。

「うん、そんな感じだった。
まるでこの世の終わりみたいな顔してたよ」

『ガタン!!』

「すまない!!」

健次は椅子を倒してしまい、他の客から視線を浴びるが、まったく気にする事もなく立ち上がり、湊に向かって深々と頭を下げる。

湊はそんな健次の突然の行動に、驚く訳でもなく、止める訳でもなく、ただ真っすぐに健次を見つめる。

「何で謝るの?」
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