威鶴の瞳


私には何もない。

私はひとり。



一人。

独り。

ヒトリ。



なぜか過去を思い出した。

楽しいとも、悲しいとも、何も感じない過去。

ただ一人、会った時だけでも優しい姉、目を合わさない両親。



怯えるクラスメイト、先生、近所の人。

誰も目を合わそうとしない。

誰も──なぜ?

そこて初めて、思い出した。



いつの間にか、能力をコントロール出来ていた。

だからここ数年は誰の過去も未来も見ていないし、直接会う人の目の奥を見てそれを覗くから、自分の未来は映せない。

だから『見る能力』の事は完全に忘れていた。



散々人の過去を掻き乱しておいて、大人になるにつれて忘れていった。

でももし、この能力が今、役に立つのだとしたら?



未来の事は、わからない。

でも少なくとも今は、試す価値がある。
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