威鶴の瞳
記憶
「私には、『子供の頃から遊んでた占い』しか残っていなかった」
その言葉に被るように、ピピピと鳴る体温計。
「ここまで」
姉が帰って来た所から先は、話さずに済んだ。
ただでさえ隠す場所を言いかえているのに、これ以上は……威鶴誕生秘話なんて話せない。
体温計を取り出し、数字を見る。
『38.3℃』
少し下がったみたいだ。
その数字を透眞にも見せ、しまう。
「……そん顔、しないで」
透眞の顔は、ひどくツラそうで、苦しそうで、私の痛みを私以上に、感じているみたいで……。
「ツラくも苦しくもなかった。ただただ『無』でした。何も感じていません」
そうは言ったものの、私は気付いていた。
ううん、気付かされた。
私の中では、本心では、『姉』が全てだったことに。
だから『依鶴』は鏡の向こうで、眠りについてしまった。