威鶴の瞳


私が知っていることは、姉の婚約者と、姉の記憶喪失と、姉の……。

結婚は、結局したのだろうか?

したとしても、その席に私は呼ばれていないし、連絡先だって知らないだろう。



……何を今さら、そう思うのに。

途端に過去が真っ黒に塗りつぶされていくようで。



『私』って、一体何だったんだろう……?

『家族』ってどういう定義の下で成り立つものなんだろう?



血の繋がりか、心のつながりか。

後者ならば、私に家族はいなかったということになる。



──漠然とした恐怖に包まれた。

なぜ今まで平気で居られたのか、なぜ今まで疑問に思わなかったのか。

それはきっと、今まで大切だと思うものが存在しなかったからであって、それは今は……大切だと思える人が出来たからであって。


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