威鶴の瞳


大切なものが出来ると、人は弱くなる。

ずいぶんと前に、レインは言っていた。

それは、大切なものがわかると、それが壊れる事に恐怖を覚えるから。



そしてそれは同時に、強くもなると言っていた。

その強さを、私はまだ知らない。



トーマは、強いな。

少なくとも、私よりはずっと強い。



だって彼には、いつかは実家に帰ろうという意思がある。

今はダメだろうと、威鶴が与えた逃げ道に縋りつつも、戻る事も考えている。

だから帰ることを怖がりつつも、未来ではしっかりと家に一歩踏み入れていた。



そう遠い未来じゃない。



それにしても、これからどうしようか──考えたところで、一台のバイクとすれ違った。

まぶしいな……そう思った直後に、バイクがなぜか引き返してきて、私のすぐ横で止まった。





「威鶴さん……?」



そこには、竹原叶香と知らない男がバイクに二人乗りしていた。
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